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概要:人材獲得競争が激化するなか、頼りになるのが人材紹介会社です。しかし、いい人材を紹介してくれないからといって担当者を叱るのは悪手。外注先とのコミュニケーションの最適解は「ビジネスモデル」の違いで変わってくると元リクルートの中尾隆一郎さんは言います。
tadamichi/Shutterstock
働き方が多様化するにつれて、企業にとっては優秀な人材の確保が大きな経営課題になっています。みなさんの組織でもあの手この手で採用計画を立てているのではないでしょうか。
採用手法にはいろいろあります。求人広告を出す、自社のオウンドメディアで採用情報を告知する、自社SNSで発信する、従業員に知り合いを紹介してもらう(リファーラル採用)、人材紹介会社に依頼する、などが代表的なところでしょうか。企業は通常、採用ニーズに合わせてこれらの手法の中から取捨選択します。
私はかつて、リクルートで求人広告の営業担当をしていたことがあります。クライアント(顧客企業)の採用ニーズに合わせて求人広告を制作し、採用の母集団作りをする仕事です。
このときの経験から、実に多くのことを学びましたが、その中でも本稿でお話ししたいのは「採用に関わる外注先といかにうまく付き合って人材確保を実現するか」です。というのも、このポイントを押さえないままやみくもに外注している企業が驚くほど多いからです。
人材紹介会社の営業担当を叱るのは愚の骨頂
求人広告の営業担当者(つまりかつての私)は、求人広告の効果(問い合わせ、応募、内定など)が出なければクライアント企業から叱責(あるいは要望)されます。ある意味“営業担当者あるある”です。そこで、叱責されないように効果が出る求人広告を制作することが重要な仕事になってくるわけです。
ただし採用ニーズによっては、求人広告だけでなく人材紹介会社を併用したほうが効果が見込める場合もあります。そこで私は、リクルートのグループ企業である人材紹介会社の営業担当とチームを組んでクライアントの求人支援をすることもありました。
ところが、です。
人材紹介会社も求人条件に興味を示す応募者あっての仕事ですから、場合によってはクライアントが満足するような応募者が出てこないこともあり得ます。するとクライアントの中には、求人広告の担当である私に対してだけでなく、この人材紹介会社の営業担当者も厳しく叱責してくる人がいました。
「いい人材を連れてこない営業担当をクライアントが叱責する。当たり前じゃないか」と思うかもしれません。
しかし私に言わせれば、求人広告の営業担当者に対してならともかく、人材紹介会社の営業を叱責するのは愚の骨頂です。
みなさんはその理由が分かりますか? ヒントは「ビジネスモデルの違い」です。
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叱責する前にビジネスモデルに着目せよ
「企業経営にとって重要なことは?」と聞かれたら、みなさんは何と答えますか?
もちろんこの答えはたくさんあるのですが、1つ選べと言われたら、それは「固定費をできるだけ小さくすること」です。
固定費と変動費をうまく使い分ける
コストには「変動費」と「固定費」の2種類があります。売上等に連動してコストが変わるのが変動費、売上に関係なく支払わなければならないコストが固定費です。固定費の代表的なものとしては、家賃や人件費、水道光熱費や減価償却費などが挙げられます。
では、なぜ固定費をできるだけ小さくすることが重要なのでしょうか。それは、固定費が高いと、売上が減少した際にすぐに赤字になってしまうからです。そこで、売上が多少変動しても簡単には赤字にならないように、できる限り固定費を減らすのが経営の定石です。
(出所)日研トータルソーシング「人件費を固定費から変動費に変えるメリット」をもとに編集部作成。
しかし一般的に、上述した家賃、人件費、水道光熱費、減価償却費などは簡単に減らすことができません。
そこで登場するのが「外部委託」、いわゆる外注です。
スタートアップ企業では、従業員が増減することがよくあります。だから自社オフィスで固定の家賃を払うのではなく、シェアオフィスなどで机1つごとに家賃を変動費化することが望ましいのです。そして売上が安定してきたら固定費にする。こうすることで利益がさらに増加します。
つまり、事業の成長に合わせて変動費と固定費を上手に使い分けることが重要というわけですね。
これはなにもスタートアップに限った話ではありません。例えば世界屈指の時価総額を誇るアマゾンは、変動費→固定費に変更するのが上手な企業の代表です。
アマゾンは、外部の販売会社が自社のプラットフォームを介して商品を販売すると、売上に連動した変動費を販売会社に支払います。そして、しばらくしてその商品カテゴリーの売上が十分に高いことが分かると、そのカテゴリーを自社販売(アマゾンベーシックなど)でも扱い始めるのです。
売上が上がるかどうか分からない間は変動費とし、売上が十分に見込めると分かると自社で取り扱う(つまり固定費にする)。まさに変動費→固定費のお手本のようなやり方です。
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採用にかかるコストを変動費化する3パターン
さて、話を元に戻しましょう。
企業が人材採用にかかるコストを変動費化したい場合はどうしたらよいのでしょうか?
採用担当者を雇い、求人広告を社内で制作し……というのでは固定費が膨れるばかりですが、こうした社内の業務を分解し、それを外注すれば変動費化することができます。前述の、求人広告企業に依頼する、人材紹介会社に依頼するなどはまさに変動費化の例ですね。
ただし、変動費化したコストの効果を最大限に高めるためには、それぞれのビジネスモデルの違いに応じて対応を見極める必要があります。ここがポイントです。
人材採用支援のサービスを手がける企業は多々ありますが、一般的に以下3つのビジネスモデルのいずれか(もしくはその組み合わせ)に当てはまります。
(1)サブスクモデル
毎月固定の料金を支払うサービス。
代表例としては、採用活動に必要な人員を手当てしてくれる派遣会社など。残業の有無などで金額は多少上下しますが、基本的には毎月固定の料金を支払うことになります。
また、ATS(採用管理システム)なども利用アカウント数などに応じて毎月固定の料金を支払うサブスクモデルであることが多いです。
(2)事前支払いモデル
事前に広告料を支払うタイプのモデル。求人広告などがこれに当てはまります。
(3)成功報酬モデル
成果が得られた場合に料金を支払うモデル。代表例は人材紹介会社で、紹介した候補者が実際に採用に至った場合のみ、その人材の年収に応じた紹介料が支払われます。
これら(1)〜(3)を変動費・固定費の観点で仕分けると、(1)サブスクモデルと(2)事前支払いモデルは成果に関係なく固定費で支払いが発生するモデルであり、(3)成功報酬モデルだけが成果に連動して変動費が発生するモデルということになります。
先述のように、経営的な観点で考えるとできる限り変動費にしたいわけですから、サービスを利用するクライアント側からすれば、成果が出なければ料金を払わなくていい成功報酬モデルはうってつけです。
さて、ここで思い出してください。先ほど私は「人材紹介会社の営業に効果がないことを叱責するのは愚の骨頂」と書きました。
その理由はもうお分かりですね。クライアントの立場に立つと、成果を得られないことに苛立ちを感じるのは理解できるものの、お金も払っていないのに営業担当者を叱責するのは筋が通らないというわけです。
人材紹介会社はどんなクライアントと付き合いたい?
成功報酬モデルは、クライアントにとっては「成果がある場合だけお金を払えばよい」というモデルですが、視点を変えれば「人材紹介会社にとっては、成果が出なければ収入を得られないモデル」に他なりません。
では、人材紹介会社の営業担当者にとっては、どんなクライアントと付き合いたい(=成果が上げやすく収入につながりそう)と思うものでしょうか? 端的に言うと、次の3つです。
採用数が多い企業
採用基準が低い企業
給料などの条件が高い企業
このような条件に当てはまる企業ほど採用が成功しやすいため、成功報酬をもらえる可能性が高まるわけです。
余談ですが、以前私がIT会社の社長をしていた時、まさにこの3条件を地で行くようなライバル会社が現れました。その企業は採用基準を下げた大量採用に乗り出し、しかも私の会社より多い時で3割も高い報酬を提示し出したのです。多くの人材紹介会社がこぞってこの会社の採用支援に乗り出したのは言うまでもありません。
では、みなさんの会社はどうでしょうか? 上述のように採用数が多く、採用基準が低く、条件がいい企業でしょうか? そうであれば、成功報酬が基本の人材紹介会社も積極的に協力してくれるはずです。
しかし現実には、このような企業はめったにありません。大半の企業は、少数採用ですし、既存社員への影響もあるので気前のいい条件提示も容易ではありません。そのような状態で人材紹介会社の営業担当者を叱責しても、いいことなど何もないのです。
となると、どうすれば人材紹介会社に積極的に自社の採用に関わってもらえるのでしょうか?
再びビジネスモデルを考える
前述のように、人材紹介ビジネスの大半は成功報酬モデルです。人材紹介会社には、成功報酬に加えてユニークなポイントがあります。それは、人材紹介ビジネスは「マッチングビジネス」だという点です。
マッチングビジネスとは2つの対象をマッチングするビジネスのこと。例えば、旅行代理店であれば旅行に行きたい人とホテル・旅館とを、不動産会社であれば物件を探している人と不動産会社をマッチングさせます。
同様に、人材紹介ビジネスは、転職を検討している個人顧客(カスタマー)と人材を募集している企業顧客(クライアント)をマッチングさせます。
カスタマーは通常、無料で転職先企業の紹介を受けることができます。一方のクライアントは、人材紹介会社に成功報酬を支払います。人材紹介会社にとっては、どちらのほうが重視すべき顧客だと思いますか?
「人材紹介会社にとっては、お金を払ってくれるクライアントのほうが大切な顧客だ」と思うかもしれません。ところが実は、大半の人材紹介会社は転職できる人材、つまりカスタマーをより重要視しているのです。それはなぜか?
優秀な人材を集めることができる人材紹介会社には、自然とクライアントが集まってきます。極論すると、営業しなくてもクライアントが集まるのです。そのため人材紹介会社の多くは、カスタマーを集めることに膨大なコストをかけており、そうやって集客したカスタマーを大事にしているのです。
したがって人材紹介会社としては、手間ひまかけて集めて育てたカスタマーを大事にしてくれる企業と付き合いたいと思うものです。逆に、応募者をぞんざいに扱う企業とは付き合いたくない。そのような企業に大事なカスタマーを送り込んでしまうと、そのカスタマーからの信頼を失い、他の人材紹介会社へ移られてしまうからです。
「外注先」ではなく「第二人事部」
ここが成功報酬ビジネスである人材紹介会社との上手な付き合い方のコツです。
つまり、応募者に丁寧に対応し、その情報をきちんとタイムリーに人材紹介会社にフィードバックするのです。そんなの当たり前だと思われるかもしれませんが、これがきちんとできている会社は驚くほど少ないのが実情です。
採用したい応募者には丁寧に対応する一方、魅力を感じない応募者にはおざなりな対応に終始し、その理由を人材紹介会社に何もフィードバックしない——そんな企業が極めて多いなか、もしあなたの企業がこれを実践するだけで、人材紹介会社からの印象は大幅にアップします。
人材紹介会社を「外注先」と捉えるのではなく「第二人事部」、つまり仲間だと思ってコミュニケーションしてみてください。“同僚”や“部下”が一生懸命集めてくれた応募者です。自然と丁寧な対応をしようという気持ちが湧いてくるはずです。また、求める人材ではなかった場合も、丁寧にフィードバックしようと思うでしょう。
あなたが向き合う姿勢を見直してコミュニケーションするだけで、人材紹介会社との関係が驚くほど改善し、ひいては自社にフィットした優秀な人材を採用できる可能性が高まるはずです。
ぜひ人材紹介会社に、当社の第二人事部になってほしいと伝え、どうすればいいかアドバイスを聞いてみてください。私自身、人材紹介会社の責任者と担当者からアドバイスを受け、関係性が改善したことで採用がうまくいくようになったことが何度もありました。おすすめです。
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中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェロー、TEPCOフロンティアパートナーズ投資委員も兼任。新著に『1000人のエリートを育てた爆伸びマネジメント』『世界一シンプルな問題解決』がある。
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